女神の旋律 第一章 その3
「会いたかったよ、僕の愛しいカリル。」
両腕を広げて「今すぐ僕の胸に飛び込んでおいで」というようなポーズを取りながらサード王子はそう言った。
前回縁談相手として紹介されたロンパス王国第一王子であるサード・ラシーダ・エル・ロンパス。
癖のある薄茶色の髪に薄い青の瞳をした青年である。もちろんカリルは容姿・性格共に全く気に入らなかったので即断った。
が、彼はカリルを甚く気に入った挙句、何を勘違いしたのか相思相愛だと思い込んでしまっているのだ。
もちろん、縁談を断られたことなど全く記憶にないのだろう。
あーあ、こっちはもう2度と会うこともないかと思って清清してたのに。
内心うんざりしながら、でも顔には極上の笑みを貼り付けてカリルは言う。
「私驚いているんですのよ。急にいらっしゃるものだから。」
っていうか、来るなら言えーっ! 来るって知ってたら逃げ出してたのにー!
しかし心の叫びはもちろん王子には全く伝わらない。
「ごめんよ、カリル。急に来たりして。でもカリルにどうしても会いたくて。」
手持ち無沙汰になった両腕を下ろして、カリルの傍に近づく。
ここでも「カリルは恥ずかしがりやだから僕の胸に飛び込んで来なかったんだな」と勝手に都合よく解釈されているため、
「カリルが心底王子のことが嫌いで近づいて来なかったのだ」などとは微塵も思っていない。
「愛しいカリルのことを考えると夜も眠れなくて。君のそのすべらかな肌、美しい瞳、可愛らしい唇…
寝ても覚めても忘れられないんだ。君のその美しい笑顔が浮かび仕事も手に付かないのでとうとう会いに来てしまったよ。
君にも分かるよね?この切ない気持ちが。」
「全然分かりませんわ。」
触るなー! 離せーっ!!
カリルの腰に片腕を回し、片手を頬に触れ、うっとりと瞳を見つめ、唇を指でなぞりながら言った彼に、やや引き攣りながらもニッコリと微笑んでカリルは本心を暴露した。
しかし、サード王子の超ポジティブシンキングは彼女の拒絶をもプラス要素に変える。
「そうか。君は僕らの愛を信じていたんだね。あぁ…僕はなんて愚かだったのだろう。遠く離れて会えなくたって二人の愛は永遠だと言うのに。ごめんよ、カリル。愚かな僕を赦しておくれ。お詫びに今ここで君への永遠の愛を誓うよ。」
そこまで言っただけなら良かったのだ。言っただけなら。しかし本当に愚かなことに、王子はそれを実行してしまった。
つまり、片手で彼女の顎を上向かせると、そっと顔を近づけ……