女神の旋律 第一章 その7
「カリル様! どうしてこんなところに……って大体分かりますけど。」
さすが15年のキャリアは伊達ではない。
「お怪我はないですか? この場所には入っちゃだめって言ったじゃありませんか。ここは危ないって……。」
スイランが心配顔で駆け寄り、カリルの身体に傷がないかどうかを点検する。
「ここは人食い植物がいるから危ないって。」
「ひ、人喰い……!?」
カリルは絶句した。そ、そう言えばそんなこと言ってたような気もするけど……本当にいるの? 人喰いが?
脅えて思わず周りを見渡すカリルに怪我がないことに安心したのか、スイランはにっこり笑ってカリルに言う。
「でも、ご無事なようで良かったです。カリル様って悪運強いんですね。」
わざわざ「悪」をつけるところがさすがである。カリルのことをよく分かっている証である。
「さ、早くお部屋へ戻ってください。セイル様カンカンですよ。」
スイランがカリルを部屋に連れ戻そうとする。しかし、カリルはスイランの言葉を聞いてますます帰りたくなくなった。
「やだ。帰らないもん。」
「な、何言ってるんですか、子供みたいに。」
「絶対いや。」
もう。カリル様ったら我が儘なんだから……。
内心ため息をつくスイラン。
「カリル様! 帰りましょう!」
「いやだっ!!」
だって帰ったらお兄ちゃんに怒られるし、まぁ、あれだけ暴言吐いたからさすがにあの変態王子と結婚させられることはないと思うけど…でも新しいお見合い相手探してきて結婚させられるだけだし。大体お兄ちゃんが連れてくるお見合い相手って皆どっかおかしいのよね。なんであんな変なのと可愛い妹を結婚させようとか思えるんだろう。お兄ちゃんも変態だから趣味がおかしいのかな。だったら私が頷くまで次から次へとキモイ相手を連れてくるってこと?うわー最悪。それじゃいつまでたっても素敵な結婚相手見つからないじゃん!!私こんなとこで腐っていくわけ?それでいつかは強引に妥協させられて変態と結婚しなきゃならないの?そんなのやだ…。
そんなことをつらつらと考えていたら、つい思っていることが口に出てしまった。
「……もう……いっそのこと家出でもしようかな……。」
「…………はっ?」
スイランは絶句した。衝撃のあまり瞳を見開き、口をポカンと開けた状態のまま固まってしまっている。
「そしたら自分で理想の人探せるし……素敵な8頭身の……黒髪で緑の瞳で…ちょっと低くて甘い声で『カリル。君が運命の女性だ。結婚しよう。』なんて言ったりして……キャッ、素敵!」
カリルは完全に夢見る乙女と化した。非現実的な妄想が口から駄々漏れである。一方のスイランは。
「どうしましょう……カリル様が家出なんて……どうしましょう。やっぱり着いていかなくちゃだめですよね……でも、カリル様と二人なんて凄く不安……で、でもカリル様お一人なんてもっと不安だし……!」
……止めなくていいのか!? しっかりしているくせに意外に抜けている。そして二人は暫くの間それぞれの世界に浸った。