女神の旋律 第一章 その8
「よし、決めた!!」
カリルが突然大声で言ったので、スイランは我に返った。どうやら現実逃避していた間に何かしらの結論を出してしまったようである。
「な……何を決めたんですか?」
いやぁな予感がしてスイランはカリルに訪ねる。長年培った勘が、カリルがろくでもないことを考えていると告げている気がする。
「あのね、」
興奮で大きな瞳をキラキラと輝かせながらカリルは答える。
「私、自分で結婚相手探しに行く!!」
あー……やっぱり。
スイランは自分の予感が当たってしまったことにがっくり来た。カリルに関することでスイランの勘が外れたことなどなかったのだが、やっぱり外れなかった。一度ぐらい外れててくれれば平和なのに、と思うスイランであった。
と同時に、スイランも一つの決心をしていた。
「カリル様、私も付いていきますっ!」
「あ、いいよ。」
軽くあしらうカリル。スイランがせっかく一大決心をして言ったのに、である。「えーっ」とか「うっそー」とか「わーい」とかもうちょっと大きい反応をしてくれると思っていたのに、である。
「じゃ、早速行こう!」
カリルが何も考えずに歩き出すので、慌ててスイランはカリルを止めた。
「待って下さい!今着替えやお金など持ってきますから。あとカリル様愛用の偽造通行証も。」
偽造通行証とは、カリルが時々城を抜け出すときに使っているもので、セイルの執務室に忍び込んで偽造したものである。これを持って侍女になりすまして城門を出るのである。
「他にも色々準備しなくちゃいけないことがありますから。暫くここで待っていてください。」
「えーっ。ここ人喰い植物がいるんでしょ?」
カリルが反抗したが、スイランはすかさずにっこりと微笑んで言った。
「大丈夫です。カリル様は悪運が強いですから。」
その30分後、カリルとスイランは無事城の外へと抜け出した。