女神の旋律 第二章 その2
小さな焚き火の前に二人の男がいた。
一人の男はこちらに背を向けて地面に寝転がっている。寝ているのか、休んでいるのか。色素の薄い銀髪で、かなり背が高く、肩幅も広い。腰に挿した剣を見るまでもなく、いかにもどこか北国の騎士のような雰囲気である。
一方もう一人の男は、焚き火にかけた鍋をいじっている。どうやらカリルの嗅覚にかかったのはこの鍋の中身が発する匂いのようだ。サラサラの金髪が風にそよぐ。横顔にはまだ少年の面影があり、銀髪の男の貫禄と比較すると、どうやらこちらの男のほうが若そうである。
茂みの中に身を隠しつつ、スイランは冷静に観察する。
身なりからしても、少なくとも山賊などではなさそうですが…。
「カリル様、どう思います?」
「お腹すいた。」
…………彼らは危険じゃなさそうだから早く声をかけて見ようってことですよね。そう言いたかっただけですよね。何も考えずにただ自分の欲求に従って言ったんじゃないですよね。
思わずカリルを殴りそうになった自分を制してスイランは自己暗示をかけた。
「ねぇ、早く行こうよスイラン。とりあえずご飯もらえれば誰でもいいよ。」
やっぱり何も考えてないです! やっぱりただ欲求に従っただけです!!
一瞬にして自己暗示が解けたスイランは、カリルをポカリと叩いた。
「痛っ。」
ガサッ。
カリルがスイランに叩かれた頭を抱えた拍子に、腕が枝にあたり茂みが揺れる。
「誰だっ!?」
ビクッ。
剣を抜く金属音と共に良く通る声が辺り一帯に響き渡り、カリル達は硬直した。
「そこの茂みに潜んでいる奴。何が目的だ!?観念してこっちへ出て来い。」
ど、ど、ど、どうしよう……!! 斬られる!!
金髪男の硬い声に二人は焦る。
「カリル様が不用意に動くからっ……。」
「スイランが私のこと叩くからでしょっ……。」
「それを言うならカリル様がアホなこと言うからですっ……。」
小声でお互いを責め合う。醜い姿である。
なかなか出てこない二人に痺れを切らしたのか、金髪男は苛立たしげな口調で言う。
「おい、出て来ないつもりか? そっちがその気なら、こっちから行くぜ。」
そう言って剣を構え、こちらに来ようとする。
ぎゃーっ! 斬りに来ちゃうー!!
最早頭真っ白で何も考えられなくなって完全にパニック状態になった二人は、恐怖のあまり座り込んだまましっかりと抱き合った。